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「武装神姫のリン」 第17話 「花憐」 「ぶっふぇぇ!!!」 今日はリンの2回目の"誕生日"、それでリンにプレゼントに何がいいか聞いてみた。 その返答に対する俺の反応が上のモノだ。 思わず下品にも口に含んだものを吹き出してしまった… そのリンの返答っていうのが、 「子供が欲しいです」 うん、俺の反応は間違ってないはずだ。 茉莉も口をポカンと開けるばかりでティアもさすがに閉口している。 「…リン。判ってるよな? 子供って…」 「あの、私そんなに変なこと言いましたか? マスターが子供に相当するパーソナリティを持つモデルを買ってくれるって言ったじゃないですか。」 しばしの沈黙。そして… 「もう、亮輔のバカ!!!」 茉莉の思い切りのいいビンタを頂戴した俺であった…orz そして数時間後、俺たちはエルゴの店頭にいた。 頬を腫らしている俺を見て苦笑しながらも店長はかねてからおねがいしていた"頭身が低い素体"と"成長速度鈍化""子供思考"のCSCを棚から出している。 「ヘッドユニットはストラーフでいいのかな?」 素体とCSCを接続した店長が聞いてくる。 「はい、それでおねがいします。」 俺ではなく、リンが返答する。 「そういえば…ちょっと提案があるんだけど。」 「どうしたんですか?」 「あのね、今度から神姫の髪の色を変えるカスタムのサービスを始める予定なんだけど、この子にモニターっていうか、なんていうか試しにやってみないかい?」 「リン、どうする?」 「私が決めるんですか…じゃあお願いします。さすがに全く自分と同じ顔というのは気になるので」 「わかりました、で何色がいいのかな? 好きに選んでくれていいよ」 そういって髪の色のカタログやら見本をリンに渡す店長。 見ると茉莉やティアもカタログに見入って、話しをしている。 「ちょっと、亮輔君」 その隙をみて急に店長が俺に言い寄ってくる。なぜか俺だけに話したいことがあるらしいが… レジ裏にしゃがみこんだ俺と店長。そして店長は俺にものすごい小声でこう言ってきた。 「あれってリンちゃんのプレゼントだよね?」 「そうですけど、子供が欲しい…自分で世話をするからそういう子供に相当する神姫が欲しいって」 「たぶん前代未聞だよ、母親になる神姫だなんて…まあそれは置いといて。もう1個プレゼントになりそうなものが今、ウチにあるんだけど、どうかな?」 「物を見せてくれないとなんだかわからないんですが…」 「ふれあいツール"赤ずきんちゃんご用心"って言えばわかるだろう?」 「プ…ッ(必死に吹き出しそうになるのを押さえる音)」 「あれがね~幸運にも手に入ったんだよ。結構競争率高いらしいんだけどね。」 「で、俺とリンにですか?」 「うん、リンちゃんにもそろそろ"ホンモノ"の感触を知ってほしくないかい?」 俺の脳裏にピンクな景色が一瞬広がる 「…ホントに商売上手ですね、店長。」 「じゃあ買う?」 「ハイ。」 「じゃあがんばってね」 「あの、それっていうのはどういう意味で?」 「さあ~どっちだろうw」 そんな感じで商談が成立した。 そして何も無かったかのようにリンたちの所に戻る。さっきまでのことは忘れよう、ウン。 「決まったか?リン」 「あっ、マスター。いちおう決まったといえばそうなんですが…」 「じゃあ言ってみろ」 「黒はイヤですか?」 「なんで?リンが好きならそうすればいいだろ。」 「だって、マスターって金髪好きそうなんで…」 そうして茉莉の方を見るリン。 くそ、そんなにカワイイ表情しないでくれ…さっき想像したことが再び頭の中に浮かんでくるのをかき消して返答する。 「はは、そんなこと気にするなよ、もし俺とリンの子っていうなら黒でいいんじゃないか?」 「じゃあそれで、店長。黒でおねがいします」 「たしかに承りました。処理に5分ぐらい掛かるから待っててくれるかな?」 「はい、じゃあその間に料金払っときますよ、で合計でいくらですか?」 「うん…基本のセット料金に素体の特注のライセンス料、黒髪は特別料金だけど今回は割り引きで…しめて…この値段だね。」 まあ予想通り"それっぽい名目"で書かれた料金票を見る。 うん、この値段なら予算の範囲内だ、微妙に余計な費用が加算されたりはするが…今回はジェニーさんのレジを通すわけには行かなかった。 レジと接続した状態のジェニーさんにはそういう偽装は通用しないことは以前のことで知っていた。 だからこそ、店長に直接料金を支払うのだ。物はあとで取りにいくとしてもこれだけは回避しなければならなかった。 そうして支払いを済ませて待つこと数分。艶やかな黒髪のストラーフが俺たちの前に横たわっている。 CSCは先ほどのもに加え、"おしゃれ"を選択。これはリンの提案だった。 CSCおよび素体、ヘッドユニットのチェック完了。リンの娘である神姫が起動し、ゆっくりと瞳が開かれた。 「…う~ん、眠ぃ…」 第一声がコレだった。やっぱりCSCの特性が関係してるんだろう。とりあえず俺がまずはマスター登録をする。 「藤堂 亮輔をマスターとして登録しましたぁ~で呼びかたはどうしますかぁ?」 「お父さん、だ。」 「……お父さん…お父さんですねぇ~判りましたぁ…むにゃむにゃ…」 今にも寝そうな彼女を必死に起こして言う。 「まだ名前をあげてないだろ、キミの名前は花憐だ」 「花憐…カワイイ名前です~こんな名前をもらえて花憐はうれしいです。」 名前をもらえたことがいい刺激だったのか、眠そうだった花憐の目に光が宿ったように感じた。言葉遣いも安定してきた。 「それは良かった、それで…この子がキミのお母さんのリンだ。お母さんの言うことはちゃんと聞くんだぞ~」 「はい~わかりました」 そうして 花憐はくるっと回転して、リンに向き合う。 「お母さん よろしくおねがいします。」 「ええ、花憐」 リンは花憐を抱きしめる。 リンはとてもうれしそうで、涙さえ浮かべてた。 花憐のほうもなんだか安心したような表情で。 こうしてウチに新しい家族。俺とリンの"娘"の花憐が加わった。 これでウチは以前にもまして明るくなるだろう。この幸せを大切にしていきたい。そう俺は思った。 ~燐の18「アキバ博士登場」~
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武装神姫のリン 第7話 「ティアVSジャンヌ」 私の名前はティア。愛するご主人様の所有物。 武装神姫ですわ。 で今日はアーンヴァルの基本パーツの1つ。 大口径ブースターの出力を強化した先行試作モデルをいただいたので、その調整と試運転を兼ねて近所の公園で飛行中です。 そのためにご主人様が見ていないうちに辺りのカラスや鳩をレーザーライフルで追い払ったのでいま空に私をさえぎるモノは存在しません。 なんて空を飛ぶのは気持ちよいのでしょうか?? お姉さまにも体感させてあげたいくらいです。 おや、あそこに見えるのは豪華なドレス。 しかしそれを身にまとうのは"ぽっちゃり"と言うのさえも、お世辞にならないくらいに丸々太った体躯。 全くもって美しくありませんわ。 私の瞳はあののような"物体"を映すために存在しているわけではありません。 早めに私の視界から消えていただくことを望みます。 よって威嚇射撃敢行、もちろん直接当てるわけではありませんので問題になることは無いでしょう。 そうして私はレーザーライフルをあの物体の足元に照準を合わせ、出力30%で発射。 いきなりアスファルトが光ったことでアレは逃げ出すはずでしたが、 いきなり黒い服を着たSPらしい人が集まってきました。 どうやら暗殺かなにかと勘違いしたらしいです。 私は面白くなかったのでご主人様の元へ帰ります。 そのときは気付きませんでした。アレがあんな人物だとは…… 俺はリンを定期健診に預けて今日はティアと2人で公園へ、というのもあのリンのレッグパーツのシリンダーを手がけた友人の会社の改良ブースターの先行試作販売型(ライセンスはもちろん取得済み)の試運転に連れてきている。 今日は4月5日。絶好のピクニック日和だ。 もちろん空を飛ぶにもとてもいい天気。 なのだが、ティアのヤツがちょっと目を離した隙に高く飛んで行ってしまった。 で探しているとなぜかレーザーライフルを抱えているのが気になったけども、無事に戻ってきた。 それまでは良かったのだけど…その数秒後俺たちは黒ずくめの男達に囲まれていた。 「あなたですのね!この私、鶴畑3兄妹の1人。和美に銃を向けた愚かな神姫のマスターは?」 後から現れたドレスを着たというより着られている感じのピz…もとい少女が声を発する。 「は???」 俺はわけがわからないので反応が出来ない 「ですから私にレーザーライフルを向けただけでなく、発射したのですよ。」 「……マジ?」 俺はティアに確認する。 「?? 私は見るに耐えない不快な物体に視界からはやく消えて欲しかったから威嚇を行っただけですのよ」 おい…ティア。それが原因なんだよと言う間もなく、俺は意識を失っていた。 俺が目を覚ますとそこは近所のセンターと思われる建物の個室、大会で使用される選手控え室だろう。 しかも俺は手首足首をベルトでイスに縛られている。全く身動きが出来ない。 辛うじて動く首を真横に動かす。左右にはあの黒ずくめの男が立っている。 しかもその手には拳銃が握られている……俺、もうだめなのカナ? カナ? 突然扉が開くとそこにあの少女がいた。その側近らしき男の手に握られるのは鳥かご。 その中にティアがいた、しかもうつぶせに倒れている。 まさか電気ショックでも食らって再起不能なんてことは…やばいのは俺も同じか… 俺の脳裏に最悪の結果が再生される。 「俺たちを処分しようってか・・・・・」 がそれに反した答えが帰ってきた。 「ここで今からバトルを行います。 感謝しなさいな、普通私に銃を向けた神姫ごとき解体処分が当然なのですが……私は慈悲深いのですよ。」 「??」 俺もティアも首をかしげる。 「そこでです、私にショーを見せてくださいますか?」 「ショー?」 「そうです、貴方の神姫に私の神姫『ジャンヌ』そしてその手足となる部隊の神姫たちと戦っていただきます。」 「なっ、1対多数だと!!」 「そうです、そこであなたの神姫がズタボロにやられる瞬間をその目に焼き付けていただきます。今回はそれで許して差し上げますわ」 「……そこのメス豚。こっちを向きなさいな」 突然ティアが起き上がってあの少女を又しても挑発を、いや明らかに侮蔑をこめてそう呼んでいる。 「な、なんですって今すぐスクラップにしてあげましょうか?」 「そのショーの主演、受けて差し上げますわ」 「あら、思ったより素直ですのね。よろしい。まあ貴女の声を聞くのはコレが最後になるでしょうけど」 「ただし、条件が1つ。 私が勝者になれれば私とご主人様を開放し、拘束した賠償金をいただきますわよ」 「……いいでしょう、いちおう聞いてあげます、いくら欲しいのかしら?」 「100万。」 「………わかりました、たとえどれほどの額を要求されてもそれが手に入ることは100%ありませんから。」 「で、相手は何体ですの?」 「そうですね、13体でしょうか?多少増減すると思いますが」 「わかりましたわ、ご主人様を離してくださいますこと? セッティングはご主人様にしか許してないのですけど」 「ではショーの開始は15分後ということで、せいぜい生き残るすべを考えてなさいな」 そうして彼女は部屋を後にする、そして側近によりティアの入れられた鳥かごとパーツ(いつも大会に持っていくバッグにはいっているのでこの場合はバッグと呼んだほうが良いのか?) が拘束を一時的にとかれた俺に渡される。 そうして俺はティアにありったけの装備をつけ、さながら重爆撃機のようなシルエットになったティアに全てを託した。 俺はフィールドが良く見える台の上にイスごと括りつけられフィールドを見下ろすことしか出来ない。 そしてティアと敵の神姫がステージに上がる。 普段は神姫が2体しか存在し得ないフィールドに今は神姫が14体存在している、しかも最初からティアを13体の神姫が取り囲んでいる、面子は今まで発売されたモデル全て。 それにまだ未発売の騎士型の「ジャンヌ」が加わっている。 そしてショーと言う名の公開処刑が始まった。 しかし、そのとき俺はこの公開処刑を影から見つめる1人の少女のがいることに全く気がつかなかった。 アーンヴァル部隊のレーザーライフルによる4方向からの一斉射撃。 改良ブースターの力でギリギリそれを回避するティアに次はマオチャオとストラーフが2対ずつ襲い掛かった。 各々接近戦用の武装である爪やクローでティアを護る追加装甲版を次々とえぐっていく。 がティアはブースターを100%の出力で開放。敵の神姫ごと思い切り壁にぶつかる。 そうしてティアと壁の間に挟まれた2体が沈黙した。 一方のジャンヌはというと、動くはずが無い。 アレは部隊指揮をつかさどるのだろう。 もしくは軍の大将にでもなった気分でいるのか、手にした剣を地面に突き立て事態を静観している。 壁にぶつかったティアが動き出すより早くハウリン部隊とアーンヴァル部隊の砲撃が次々とティアの装備を破壊していった。 そうして巨大MAを模して構成したパーツは全て破壊されたかに見えた。 だがティアはあきらめていなかった。 破壊された翼を壁にして砲撃を防ぎ、あとは残った火器を全て自動砲撃設定で動き回る。 自動砲撃設定はティアが以前から持っていた能力だ。 レーザーライフルがランダムに最大出力のレーザーを乱射する。ライフルが焼き切れるまでの間になんとか3体のハウリンを葬った。 役目を果たしたライフルを捨て、そのままマシンガンやバルカンで弾幕を張りつつティアは必死に逃げる。 だが奮戦も束の間、ティアは持てる全ての外部装甲および銃火器を破壊されたのだろう、アーンヴァルの砲撃が止んだのだ。 しかし煙が晴れた場所、ソコには背後にあったビルの残骸と、それにのしかかられるようになったパーツの山があったがティアの姿は見えない。 その時点で正常稼動している神姫は8体。 砲戦主体のアーンヴァル3体にマオチャオ2、ストラーフ2。 そしてジャンヌという内訳だ。 ティアの姿が確認できていないというのにジャンヌは眉ひとつ動かさない。 そして本体のみの姿となったであろうティアを残りの神姫に探させる。 が一向に見つからない。さすがに和美は我慢ならなかったのか声を張り上げる。 「ジャンヌ! 貴方の技でその残骸を吹き飛ばしてしまいなさい」 「…了解」 そうしてやっとジャンヌが動き出す。そして残骸の目前まで来ると手に持った剣を構え、一気に振り下ろす。 衝撃波が生まれ、残骸を一気に吹き飛ばす。 がソコにはティアの姿はなく、 「フ……ドコを見てらっしゃるのかしら?」 ドコからとも無くティアの声が会場に響く。 そしてその声の出所をジャンヌが割り出す前に仲間であったはずのマオチャオが突進してきた。 「ぐぅ…なぜ」 ジャンヌがまだそのダメージから復帰しないうちにティアが姿を現す。 その手には3つ又の鞭。 「やっと出したか」 あの鞭は普段リンやティアが愛用している対"G"武装の1つで、あのとても俊敏で変幻自在の動きをする"G"を確実に捉え、粉砕する。 そしてティアの鞭さばきはリンのそれを超えていた、あれなら神姫相手でも十分に通用しそうだと踏んだ俺はアレに賭けたのだ。 元々、ティアの戦闘スタイルはあのようなゴテゴテ装備での乱戦ではなく、リンと闘った時の様な本体の身体能力(あのときは違法レベルだったが)とさまざまな武装によってわずかな敵の隙を突くスタイルだ。 そのために俺は敵の頭数を減らすためにあんな超重装備でティアを送り出したのだ。 先ほどのマオチャオの突撃は鞭を脚に巻きつかせ、反応されるより早くジャンヌに向けて投げ飛ばしたのだろう。 特別製のジャンヌは無事でもマオチャオの装甲は通常のモノ、あの衝撃には耐えられない。 そうしてやっと敵の数が半分になった所でティアの本当の力が発揮される。 ティアが今頼りに出来るのはあの鞭、そして左右の腰に備え付けられたライトセイバー2本、そして左腕にあるシールド1つ。 それでもティアはザコの神姫を次々と葬っていく。 ジャンヌがダメージを受けてからそいつらの動きが鈍くなっている。ソレを見ればいくら俺でもどういうことかは想像が付く。 ジャンヌ以外の神姫はジャンヌの命令によって動く人形だ。そして今のジャンヌは先ほどのダメージによってその命令を送る回路に不具合が発生したのだろう。 それならティアがやることは1つ。 ジャンヌに攻撃を加えればいいのだが………ティアさん??? 貴女は何を?? ティアはひたすらに鈍くなった(とは言えサードリーグなら3回戦には進出できるぐらいのレベルだと思う)神姫を1対ずつ破壊していく。 「ウフフ…こうやって鞭で敵の神姫を倒すのって、カ・イ・カ・ン☆」 どうやらも俺が何を言っても無駄らしいです、勝てるなら早くやっちゃってくださいティアさん(泣) そうして鞭1本でザコ神姫を全て粉砕して、ティアがジャンヌと対峙する。 「あんなオモチャで私の相手が務まるとお思いでしたの?」 そうして勝ち誇るように和美に向かって言う。 もちろんあちらさんの怒りはピークに達していたのだろう。 「ジャンヌ! モードを軍神から騎士に変更。そいつをバラバラにして差し上げなさい!」 「了解」 ジャンヌの雰囲気が変わる、側近の男がコンテナらしきものをフィールドに投げ入れ、ソコから強化装甲、そしてとても長大なランスが出現した。 ソレを空中で受け取り、瞬時に装着するジャンヌ。 本気だと悟ったティアは気を引き締める。 敵はランスを構えて一直線に突っ込んでくる。ティアはソレをかわすが、ランスはすぐに方向を変えて追ってくる。 あの重量の武器を受け止めることは叶わないと悟ったティアは1度距離をとろうとするがソレを許す相手ではない。 なんとかシールドでランスをそらす。だがシールドにはそのたびにヒビが走る。 そうして5度目の攻撃をそらしたときシ-ルドが瓦解。 しかしティアは逃げない。敵の懐に入り込む。 「戦闘経験が少ないのかしら、大振りすぎでしてよ」 そのまま敵にタックルを食らわせる。 敵がランスを手放したのでライトセイバーでソレを切断。 次に本体を、と思ったがそれは敵の剣に防がれる。 さすがに騎士型というわけか、剣技はティアのそれを上回る。 剣1本に対してライトセイバー2本でもティアは押され気味だ。 「騎士をなめるな!」 そうして一閃で両手のライトセイバーを弾かれた。 「すぐに終わらせてやる」 もうティアに後は無いと思われた。 「終わるのは貴女のほうでしてよ」 ティアがジャンヌに飛び掛かる。 「そんなに頭を割って欲しいか!」 ジャンヌの剣がティアの頭部をヘッドギアごと切断せんと迫る。 俺は叫びたかった、でもソレが出来なかった。そうしてティアの頭に剣が触れる 「…だから、大振りはだめだと言ったでしょうに」 その直前に ティアの手首から伸びた糸がジャンヌの両腕を切断していた。 そのままティアはジャンヌの身体を押し倒してマウントポジションを取る。 そして剣を取り上げて突きつける。 「チェックメイト。ですわね」 そうして和美に同意を求める。 「キーーーーー、お好きにしなさい! 小山、ジャンヌを回収、あとは放って置きなさい。 あの小切手は男の足元に、帰りますわよ!」 彼女はとても腹を立てた様子でバタバタと足音を立てて帰っていった。 って、小切手はいいから俺の猿轡をほどいて欲し、って何で首筋に手刀が…そのまま俺の意識は遠くなっていった。 「ずいぶんみっともない格好」 不意に懐かしい声が聞こえた。 「ふぁふぇ(誰)?」 猿ぐつわを解かれ、仰向けになった俺の瞳に写るのは……水玉パンツ 「水た……ぐふェェ」 声の主に思い切り踏みつけられたらしい。 「たとえ見えていても、それを口にするのはダメ」 「わかった、だから足をどけろ」 「…どうしようかな~」 そこにティアがやっとの思いでフィールドからこの展望席までやって来た、そして俺を見て一言。 「ご主人様は極上のMですのね」 ち、ちが。 だから何でそこで踏みつけた足をぐりぐりしますかな、コイツは。 「あ~~分かりました、茉莉様、足をどけてくださいまし」 そうしてやっと水玉パンツ…いや声の主、 『篠崎 茉莉』は足をどけてくれた。 とりあえず紹介しておこう。 彼女の名前は篠崎 茉莉 いちおう幼なじみになるのだろうか? 年は五つも離れているのだが小さい頃は近くの家には同年代の子がいなくて、いつも俺が遊び相手だった。 そのためか今では俺よりロボットなどに詳しく、神姫を買う最後の一押しをしたのは茉莉だ。 小さいころは俺をお兄ちゃんと呼んでくるたかわいいヤツだった。 ただ、小学時代に重い病気になり(俺は妹のようにかわいがっていたからほぼ毎日見舞いに通った)結果一年遅れで進学した。 よって通例なら今大学一年のはずだ。 しかし幼少時代の仲のよさ故か、厄介なことに両親同士で勝手に婚約が交わされていた。 俺がそれを知ったのは大学二年のとき。 確かに容姿は見栄えする方だし、スタイルも悪くない。 しかも基本的に俺を慕ってくれているがまだ俺には決心がつかない状態だった。 俺がなぜこの町にいるのか? と聞くと 「私、亮輔ん家に居候させてもらうことになったから、ヨロシク」 と、当然のように答えたので俺は思考は停止した。 「詳しくは家に帰ってから。ね?」 そうして茉莉は俺の腕を抱き寄せ、そのふくよかな膨らみを当ててきやがった。 「ご主人様、私たちというものがありながら、浮気だなんて(ニヤリ)」 周りの人からは「あんな見せ物になっていたうえに今度は痴話げんか、全く最近の若者は…」なんて視線が突き刺さる。 「だぁーーーーー、わかった、茉莉の話はレストランで聞く。それとティア、今日の騒動はお前が原因だ。だから予定していた買い物はお預け!」 「そんなぁ、100万も儲けましたのに、何故ですの?」 「何でも!! とにかくリンを引き取って、茉莉の話を聞いてからだ」 「じゃあ決まり、早く行こうよ」 そうして俺を引っ張っていく茉莉。 「ああん、ご主人様あぁ置いていかないでぇ~~」 出遅れたと思ったらしいティアが慌てて追いかけてきてジャンプ。 そのまま俺のかばんに潜り込んだ。 そうやって俺の人生で一番にぎやかで、心身ともに擦り切らせることになるであろう1年間が始まる。 ちなみにリンが俺に寄り添う茉莉を見た瞬間に目に涙を浮かべ、次の瞬間俺に鋭いビンタを食らわせたのもほんの序章にすぎないのだ。 ~燐の8 「ホビーショップへ行こう!」~
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雨が降り注ぐ近代都市を、重武装の神姫が滑るように移動していた。 その神姫は背中のブースターを全開にし、その巨躯からは想像もつかないほどの速度でビルの谷間を翔ける。 その姿は・・・神姫と言うよりは・・・・一体の機動兵器の様だった。 「・・・・・・・・目標確認、破壊、する」 機動兵器の彼女は小声でそう呟く。元々声の大きい方ではないからだ。 『うん。なかなか調子がいいじゃないか。ブレードよりもこう言う兵器系に向いてしまったのはなんとも皮肉なもんだが・・・・まぁいいか。それよりもノワール』 「なに」 『今日一日の感想はどうだい?』 「・・・・・それを・・・どうして・・・・聞くの?」 ノワールはそういいながらビルの陰から現れたターゲットを破壊する。 右手のライフルの残弾は・・・・残り僅か。 『どうしても何も、ハウはもう寝てるしサラに聞くわけにもいくまい。私達が見たのは暗闇で何か話していた二人だけだ』 「・・・・・・・・・・・」 彼女の主の言葉を無視しマグチェンジ。 その間も左手に装備したライフルは火を吹き続けている。 『おぉっと。わからないという返答はなしだよ? 具体的な意見を聞くまでは、このトライアルは終わらないし終わってもその武装は使わせてあげませんからね?』 多分、クレイドルで寝ている自分の傍にはニヤニヤ笑った主がいるのだろう。ノワールはそう思った。 意地が悪い。 「・・・・多分・・・二人・・・好き合った・・・・でも・・・・」 ・・・・でも、なんだろう? 何か違うような、そうでないような。そんな感じがする。 『・・・・ふむ。つまり微妙な状態なわけだな』 とうとう右手のライフルの残弾がなくなった。 ノワールはライフルを捨てると、左手のライフルを右手に持ち返る。 そのまま空いた左腕で、近くまで来ていたターゲットを殴った。ターゲットはよろめき、その隙にライフルで止めを刺す。 それと同時にアラームが鳴り響き、ノルマをクリアした事を知らせた。 『ん? 随分と早いな。もう二百体倒したのか。・・・・・AC武装は物凄い相性がいいな。メインこれで行こうか』 「ヤー、マイスター」 * クラブハンド・フォートブラッグ * 第十九話 『出現、白衣のお姉さま』 「ちょっと! 何で起こしてくれなかったのよ!! 遅刻確定じゃない!!」 「そうは言われましても。何度も起こしたのですが・・・・まさかハバネロが効かないくらいに眠りが深いとは」 「どおりで口の中がひりひりするわけね! 毎度の事ながらあんたには手加減って言葉が無いの!?」 「――――――わたしは相手に対し手加減はしない。それが相手に対する礼儀と言うものなのです」 「無駄に格好いい!? あんたいつからそんなハードボイルドになったの!?」 「時の流れは速い・・・というわけでハルナ。わたしと話すより急いだ方がいいのでは?」 「あんたに正論言われるとムカつくのはなぜかしらね・・・・?」 朝、目が覚めたときにはもう八時を過ぎていた。 普段私を起こすのはサラの役目だけどさ。流石にこういうときは起こしに来てよお母さん・・・・・・。 大急ぎで制服に袖を通し、スカートのファスナーを上げる。 筆箱は・・・あぁもう!! 「何か学校行くのがだるくなってきた・・・・休もうかしら」 私がそういうと、サラが驚いた顔で見つめてきた。 え、なに? 「・・・・珍しいですね。普段なら遅刻してでも行ってたのに。と言うか無遅刻無欠席じゃないですか。行ったほうがいいのでは?」 「ん・・・でも何か面倒になっちゃってね。・・・別にいいじゃない。たまには無断欠席も。それに・・・・・」 学校には、八谷がいる。 昨日の今日でどんな顔をしたらいいのか判らない。 お互いにはっきり言葉にしなかったとはいえ・・・・OKしちゃったわけだし。 「うん、決めた。今日はサボる。サボって神姫センター行って遊びましょう!」 「・・・・・まぁ、別にいいですけれども」 そうして辿り着いた神姫センターには、当たり前と言うかなんと言うかあんまり人がいなかった。 まぁ月曜日だし午前中だし。来ているのは自営業さんか私みたいなサボり位だろうけど。 それでも高校生と思しき集団がバトルしてたのは驚いた。まぁ多分同類だと思うけど。 ・・・・でも強いな。あのアイゼンとか言うストラーフ。 砂漠なら・・・勝てる、かも? 「それにしてもなんだか新鮮ですね。人が少ない神姫センターというのも」 「平日はこんなものじゃない? 仕事や学校あるし。・・・・あぁでも最近は神姫預かる仕事も出来たんだっけ」 「そんな職業があるのですか。なんと言うか、実にスキマ産業的な・・・・所でハルナ、わたしは武装コーナーを見たいです」 私はサラの言葉に苦笑しながらも、センターに設けられた一角に向かって歩き出す。 このセンターは武装やら神姫本体やら色々揃ってたりするので結構お気に入りだ。筐体もリアルバトル用とVRバトル用の二種類を完備してるし。 とりあえず売り場についた私はサラを机に乗せ、商品を自由に見せて回る。・・・・買うつもりは無いのよ。 そうこうしているとサラが一挺の拳銃のカタログを持ってきた。 「ハルナ、このハンドガンなんてどうでしょうか」 「・・・いや、そういうの良く判らないんだけど」 「なんと!! ハルナはこの芸術品を知らないと!? このマウザーは世界初にして世界最古のオートマティックハンドガンなのです。マガジンをグリップ内部ではなく機関部の前方に配置しているのが特徴でグリップはその特徴的な形から『箒の柄』の異名で呼ばれています。かつては禿鷹と呼ばれた賞金稼ぎ、リリィ・サルバターナや白い天使と呼ばれたアンリが使用した銃として有名ですね。さらにこの銃、グリップパネル以外にネジを一本も使用しないというパズルのような計算しつくされた構造を持っておりこの無骨な中に存在するたおやかな美しさが今もマニアの心を魅了し続けて ―――――――――――」 「あ、この服可愛いー。でもレディアントはサラに合わないかな」 「ひ、人の話を聞いていないッ!? そして何故ハルナではなくこのわたしがこんなに悔しいのですかっ!?」 ふふん。ささやかな復讐なのよ。 「でもさ、だったらそんなへんてこな銃じゃなくてこっちの馬鹿でかい方が強いんじゃないの?」 「ぬ・・・わたしのツッコミを無視して話の流を戻すとは。いつの間にそんな高等技術を・・・・それはともかく、確かに威力が多きければ強いと言えなくもないですね。でもそのM500は対人・対神姫用としては明らかにオーバーパワーです。リボルバーですから装弾数も期待できませんし」 「ふぅん。数ばらまけないのはきついわね」 威力だけじゃ勝てないってことか。 サラのマニアックな説明はそもそも理解する気が無いけれど、戦闘に関してはさすが武装神姫。私よりも知識が多い。 ・・・うん、この後バトルでもしてみようかしら。 どうせ暇だし、作戦を立てたり実力を図る意味でもバトルはしたいし。 「ねぇサラ。この後さ ――――――」 「ん? こんなところで何をやってるんだお前」 と、サラに話しかけようとしたら逆に後ろから誰かに話かけられた。 振り向くと・・・・そこにはなぜか白衣を着たお姉ちゃんが立っていた。胸ポケットにはノワールちゃんだけが入っている。 「え、何で白衣?」 「第一声がそれかね。これはバイトの仕事着だよ。それよりもお前、何でこんなとこいるんだ? サボりか」 「え、えと・・・・それはですね・・・なんと言うか」 まずいことになった。 そういえばここら辺はお姉ちゃんのテリトリーだったっけ。 ここで見つかってお母さんに告げ口されたら・・・・! 「ん・・・あぁ別に怒ってるわけじゃないんだよ。サボりなら私もよくやったさ。仲のいい三人組で遊びまわったもんだ」 そういってお姉ちゃんは笑った。 よかった。告げ口されたらどうしようかと。 「そっか・・・・そういえばハウちゃんはどうしたの? ノワールちゃんだけだけど」 「アイツは定期健診。今神姫用医務室にいるよ。それよりも、暇だったら一戦やらないか? 今バイトの方も暇だしな」 お姉ちゃんはサラの方をチラリと見ながらそう言った。 サラがどうかしなのだろうか。 「うん、いいよ。それじゃ筐体の方へいこう。・・・サラ、おいで」 「承知です」 断る理由の無い私達はお姉ちゃんの誘いに乗った。 戻る進む
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ホワイトファング・ハウリングソウル 第十九話 『砕かれた未来~The broken future~』 時は少し遡る。 ぽつりと、アメティスタの頬に水滴が当たる。 それが都か或いは自分の涙か、それとも雨か・・・アメティスタにはわからない。 「・・・・言いたいことは、それだけ・・・?」 都は、そういうと右手を大きく振りかぶる。 「駄目だ! マスター!!」 「マイスター!!」 都がやろうとしていることを理解したハウとノワールが止めようとするが、もう間に合わない。 大きく振りかぶられた右手は、ほんの一瞬、躊躇するように止まってから 「――――――――――――――!」 勢いよく、振り下ろされた。 ・・・・・・・・アメティスタは、ゆっくりと目を開ける。 自分の体がまだ無事であることに疑問を覚え、横を見る。 そこには都の手があった。 「・・・・壊さないの?」 その手をみながら、彼女は言った。 都は何も言わない。 「・・・・ボクは、キミになら壊されてもいいと思ってたんだけど」 「・・・・・・・・・・いだろう」 と、都が何かを口にする。 「・・・・殺せるわけ、無いだろう・・・!」 都は・・・都は泣いていた。 雨の中でも判るくらい、泣いていた。 「どうして? ボクは武装神姫・・・ただのオモチャだ。それに殺すんじゃない。壊すんだ」 「・・・私は、ハウとノワールを家族だと思ってる。・・・・サラとマイは友達だ・・・!」 「ボクたちを人間と区別していないのか。それは単なる誤解と錯覚だ。ボクたちとキミ達じゃ根本的に・・・・」 「そんなことは判ってる」 都はそういって、アメティスタを押さえつけていた左手を離す。 「・・・・・でも、殺せない」 「・・・・なぜ?」 「・・・・そんな泣いてる奴を、殺せるか」 言われてアメティスタは始めて気づく。 彼女の頬は・・・涙で濡れていた。 「・・・・・・・・・どうして」 「そんなもの私が知るか・・・畜生ッ!」 そういうと都は持っていた石を川に向かって投げつける。 大きな音がして、小さな水柱が上がった。 「・・・よかった。マスター・・・」 「・・・・ん」 と、都を止めようとしていたハウとノワールが溜息をつく。 「・・・悪かった。ついかっとなってな」 その様子を見て都はすぐに謝った。 間違いを起こす前に本気で止めようとしてくれたからというのもあるが、やはり心配をかけたからだろう。 都が謝り、発言するものがいなくなり場を静寂が包む。 その静寂を破ったのはやはり都だった。 「・・・・お前、壊れてなんていないだろう」 その言葉はアメティスタに向けられたものだった。 「・・・・どうしてそう思うのかな?」 都の言葉にアメティスタはそう返した。 「簡単だ。お前、私を怒らせようとしてたな? 昔の事を思い出させて怒らせて・・・自分が真犯人だって言って。そんなことを言われたら私がどうなるか、判っていたんだろう? 小さな予言者さん」 今までのお返しとばかりに皮肉たっぷりに都は言う。 「どうなるか判ってて何故私にそんなことをするのか。何故罪の告白がしたいのに、相手を怒らせるのか。それが判らなかったが・・・お前、もしかして殺して欲しかったんじゃないか」 アメティスタは答えない。 しかしそれは肯定と同義の無言だった。 「さっきの話だと“壊れてるからアシモフコードを無視できる”はずだ。だったら自殺だって・・・できるはずだ。じゃぁなんで私に殺させようとする? それは・・・お前が壊れてないからだ」 「穴だらけで推理とも呼べない。それは殆どがキミの妄想と傲慢と身の程知らずから来た考えにしか思えないね」 ようやくアメティスタが口を開く。 「そもそもボクが自殺したがってるって根拠は何さ。それにボクは衛にぃを・・・殺した。これで壊れていないわけが・・・」 「アシモフコードが未来予知とか、そんな事にまで対応できるわけ無いだろう。元々コードには抵触しないんだよ。・・・・衛のことはな」 「・・・・ボクが見た程度の事じゃ、マスターの死に直結するとは判断されなかったってこと?」 「そうだ」 都は肯く。 アシモフコードは今更言うまでもなくロボット三原則の事だ。その第一条・・・『ロボットは人間に危害を加えてはならない。また、その危害を看過することによって人間に危害を及ぼしてはならない』にアメティスタの予言は抵触するか否か。 するわけが無い。 それはまだ起こっていない事、起こるかどうかすらわからないこと。 そして何より・・・予知は果たして神姫のアシモフコードに認識されているかということ。 「アシモフコードに認識されなければそれはプログラム的には“無い”ことにされるんだろう。もともと予知そのものがイレギュラーな要素だから認識されないのはある意味当然といえる」 「・・・つまり、あれは不幸な事故だったというの?」 「そうだ。アイツが死んだことで、誰か悪者を作り出すなら・・・車の運転手以外にだれもいやしないってことさ」 都はそういって黙る。 雨は、少し酷くなってきていた。 「・・・キミはそれで、納得できるの?」 「理解できないものに何か理由をつけ、理解した気になる。それが悪いこととは言わないがね。納得するさ。だってあそこで・・・私の目の前で起きた出来事には、お前が介入する余地なんかないんだから」 都は迷い無くそういいきった。 それは・・・アメティスタの罪を、許すといっているのと同義だ。 「・・・はぁ。また死に損なっちゃった。いい加減、衛にぃの所に行きたいんだけどな」 「やっと本音を言ったなこの馬鹿魚」 アメティスタのその言葉に、都はキシシと笑う。 その笑顔に偽りは無く・・・本当に楽しそうだった。 「・・・なぁ。お前、今何処に世話になってるんだ」 「山下りたとこにある神社だよ。・・・・ボクを引き取るってんならお断りだよ。ボクは今のこの生活が気に入ってるんだ」 「お見通しか」 「・・・ま、たまには遊びに行ってもいいけど」 「・・・・クク、素直じゃないな」 そういって更に笑う都。 雨はもう・・・・降っていなかった。 前・・・次
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あの、白い刃を持った同類の少女。 ただ、違うのは、彼女は強い。 そして、自分の中のパルスが、沸き立つ。 ―――ああ、私は武装神姫なんだなと、思った瞬間である。 ちゅんちゅんちゅん 冬は過ぎ、春が来たと言うのに…………まだ寒い、そんな三月手前の日。 「ん……んうう?」 どれどれ……まだ寝ておるな、ふふ 「……?」 ふむ、やはり夜討ち朝駆けは基本だな、どれどれ。 さわ、とこう、暖かい感触が、なんと言うか。 「うおっ!?」 寸前で目を覚まし、慌てて頭を振る。 「……ち、起きおったか」 「ディス……なにしてんの?」 ズボンは下げられて、こー、危険一歩手前、というか、まあ、朝の元気の象徴が。 「――――神姫たるもの、朝の奉仕は基本だろう?」 艶かしく、舌をちろ、と魅せる。 「……勘弁してくれ」 流石に前屈み、仕事前に精力抜かれたらたまらん。 「―――残念じゃな」 ふ、っと笑う、ディス……ってこー上目で見るなこー欲しそうにっ、あー、あー!? 「天国に、連れて行ってやるぞえ?」 ちょっと、揺れた、というか更に危険領域にっ!? 「―――」 殺気、つーか、ピンチ!?、助けてピンチクラッシャー!? 何見てるつーかいつの間にか起きたんですか碧鈴さん!? 尻尾立ってるし、こー、なんだ……髪の毛逆立ってるっていうかこー!? 「マイロード」 爽やかで、朝の起きるときに相応しい、優しい声 「は、はひ」 即答且つ、瞬時に背中を正す。 「…………天国へ行きましょうか?」 砲莱向けながら言わないでくださいっつーかだんだんと近寄らないでー……って、え? 「……」 凍ってる、碧鈴さん……。 「……ふふふ」 笑っている、ディス。 「ん?」 ……えーっと、まあ、なんだ、原因は朝で寝起きで、そしてそのまま起立なんてしてたから―――― 「―――せ、せいよくのごんげっこのへんたいすけべしんきになによくじょうしてるんですかこのどへんたい ぽるのやろういいかげんにしてくださいもうだいたいじゅんじょからいえばでぃすよりわたしがさきというか わたしもまいろーどがのぞみならいくらでもというかこれじゅうはちきんれーといいんですかいいんですなら いろいろされるのもやぶさかじゃないですというかむしろしてくださいというか」 と、真っ赤な顔でぶつぶつという碧鈴。 「???」 正直、わけがわかりません。 「……碧鈴、本心までだだ漏れだぞ」 ディスは、どーやら聞き取ったらしい。 「―――」 ぼふん、っと顔を真っ赤にした、碧鈴は 「―――きっ、記憶を失えっ、まいろーどっ!?」 周囲に、大量の影……これは、ぷちマスィーンズ、うちにいるのは24体。 「24体……セット、一斉射撃……ファイエル!!」 職場の仕事を終え……取りあえずエルゴへ、ディスの顔見世もしないとな、と。 ……あ、れ? 「有難うございましたー」 なんで、俺、爽やかに、店員さんしてるん、だろ。 「……あむあむ」 碧鈴はもしゃもしゃ、と頭の上でポテチ一袋を貪っている、機嫌よく、尻尾を振って。 買収されたな……。 いきなり先輩に、ちょっと店換わってくれって言われてやってみれば―――はぁ ……まあ……それが「G」の仕事ならしょーがない。 とらぶった時には力になるのが俺の仕事だ。 「どないしはったん、はーちゃん」 「ちゃん言うなラスト」 「この体のときは、凛奈って呼んでくれいうたろ?」 耳を引っ張られる、いだだだ……こいつは、Dフォースのラスト。 現在は「人型なんとか」に入ってるらしいが興味はない、というかまあ、別になんとも…… 俺の厄介な上役様の一人、というかぶっちゃけ、Dの面々のぱしりの俺は立場が弱い。 「……で、凛奈さん、どしたの?」 「んー、ちいとな、働いてる若人に、お礼っちゅーやつや」 手には缶コーヒーがほかほかと湯気を立てて。 「あ、ありがとうございます」 ふう、と客も引いて、ひと段落ついた時なので、ありがたく口をつける。 「ぶううっ!?」 「ん、どしたー、乙女の入れたコーヒーが飲めへんかー?」 「……何入れました?」 「んー、そやねえ、マムシドリンクとか、本当は夏はんに使って後押ししよーかと思うてたんやけど」 ん?……彼女でもいるのかなあ、先輩さん。 「……そっちに、D-ソード、行ってるやろ?」 あ……ああ……なるほど、秋奈さんカスタムしてたんだから D、として使う気だったのを、俺に? 「まあ、今はディス、ですけど」 「……折角なんで暴走させて碧ちゃんと一緒に食べたらおいしそうかなぁ、と」 「怒りますよ?」 苦笑、この人はいたずら好きだ、知っているが性質が悪い。 「あはは、じょーだんや、疲れきった顔してるから、栄養ドリンク」 「……はあ、まあ助かりますけど……」 「マイロード」 碧鈴が、頭をの毛を引っ張る。 「ん、どうした?」 「……子供のないている声が」 「らじゃ、ラsじゃない、凛奈さん、ここ、任せます」 「了解~」 碧鈴の指示で、二階のバトルスペースへ 「……うわぁ、あ、やだ、やめてよぉ」 どうやら、子供を泣かすやつが居るようだ。 「へっへっへ、しょっぱいパーツ使ってるぜ、全くよお」 「仕方がナイでゴザルよ、餓鬼でゴザル」 あー、癇に障る声だ、こーいうの嫌い。 「何してるんだ?」 その辺に居た子供に聞く。 どうやら、こー、バトルロイヤルで力任せにサード上位の二人組みが、下位の始めたばかりの子を嬲っているらしい。 「ほら、ほら、逃げないと死ぬでゴザルよー?」 眼鏡を掛けた肥満体の男の操るアーンヴァルが足を打ち抜き。 「……あぁ?、ほらほら、舐めてるのか、ああ?」 茶髪を逆立てたモヒカンのストラーフが、相手の腕を、もぎ取る。 ――――見ちゃ居られん。 正義でもないが悪でもないが。 ―――これは、見ちゃおれん、だが全く戦闘訓練の無い、碧鈴を連れて行くには、と思った瞬間。 「儂を呼んだか、主?」 白い悪魔が、囁いた。 徒然続く、そんな話。 第六節 彼の理由、私の理由。 節終 続く 戻る
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姉さまは強い 槙縞ランカーには、その神姫本来の属性を外れた武装を使う者が多いが、その中でも姉さまはある種格別だ 姉さまは強力な武器を使わない 本来ストラーフはパワードアームやパワードレッグを使った白兵戦が強力なタイプだろう・・・が、姉さまがそれらを使っているのを見た事は無い 武器セットや改造装備の中からでも、姉さまは拳銃やナイフ等、普通に手動で操作出来る簡単な武器しか、使っているのを私は見た事が無い 常に自分の価値観での格好良さを第一に武装をコーディネイトして出撃し、遊びながらでも必ず勝って帰ってくる 姉さまは私にとって、マスターである以外に憧憬の対象でもあった だから、使わない本当の理由を、考えた事は無かった 「使わない」のではなくて「使えない」のかも知れない等と、考えた事も無かった 第拾壱幕 「MAD SKY」 ばらばらと、私の周りに無数の武器が現れ、あるものは転がり、あるものは闘技場の床に突き刺さる マスターが戦闘に参加出来無い以上、サイドボードを利用するにはこういった形で、バトル開始時に一斉転送してもらうか、戦闘中に私がマスターに指示するしかない だが、この『G』相手に後者のやり方では間に合わないと判断した私は、サイドボードのありったけの火器を一斉転送してもらう事にした 相手に使用される危険性がある以上、普通なら誰もやらないだろうが・・・ 「・・・!!」 案の定、出現した武器には目もくれず一直線に此方に走って来る『G』 それだけ自分の闘法に自信があるのか、それとも ・・・・単に『使えない』のか・・・・ 兎に角、ジグザグに武器の丘を走り回りながら、手に付いた火器を打ち込む事にする こういう手合いには先手必勝・・・だ 『仁竜』の大刀を素手で粉砕した以上、白兵戦になったら多分勝ち目は無い ならば精度は落ちようとも、弾幕で削り殺す!! 唸る短機関銃、榴弾砲、ライフル、機関銃 半ば喰らいながらかわされる、爆風をかえって跳躍力に加算される、僅かに装備した装甲でいなされる、マント(私のと同じ防弾か!)で防がれる 無茶苦茶だ!動きは全く出鱈目だし、それ程速くも無いが、『G』は自身の身を削りながらも、私の全ての攻撃を回避している 否、違う 奴が回避してるんじゃない 私が怯えているからだ・・・心のどこかで、こんな攻撃で奴は死なないんじゃないかと思って怯えているからっっ・・・! 爆風を切り裂いて、殆ど満身創痍の姿に見える『G』が私の懐に入って来ている 「・・・あ」 「ひとつ」 鈍い音がした 「いやああああああぁぁぁぁぁぁぁ姉さま------------っ!!」 びっくりする程の声・・・絶望の片鱗を感じた時、人は叫ぶ 神姫は人の真似をする様に作られた だから彼女も叫んでいる その精巧な絶望を感じている心がプログラムされたものであろうとも プログラムされたものであろうとも「心」は「心」だ 席を立つ 「もう見ないのですか?マスター」 「あぁ、もうけりは付いただろう。この試合を見る為に僕は来たからね・・・別に残りたいなら君の意思を尊重するけど」 「ならばマスター、この闘いはまだ終わっていない。見届けるべきだ」 「!?」 勝敗のコールは確かに行われていない 何よりも、大きく吹き飛ばされた『ニビル』に向かって『G』は走り出している 「馬鹿な・・・どうやってあの攻撃をしのいだんだ?『G』の攻撃は甲冑も貫くのだろう?」 「マスター自身が言ったではないか・・・ニビルの、『Gアーム』だ」 意識はあった バーチャルスペースの方に、である どうやらデッドの判定は下されなかった様だ どうも私は闘技場の壁面に埋まっている状態らしい 体の状態は・・・ (片脚が・・・無い・・・!?) 恐ろしいパワーだ・・・武装神姫の細腕では装甲を付けていてももたないと踏んで、ヒットポイントをずらしてかつ脚で受けたのだが・・・ 太股の辺りに残骸を残しつつ、私の右脚は見事に砕け散っていた。ついでに横腹にも痛みがある・・・明らかに衝撃でボディスーツが引き千切れていた まだ動けるなら闘おうとも思っていたが、これでは死んでいないだけで、戦闘は不可能に近い 普通こういう状況になったらジャッジングマシンが私の敗北を宣言するのでは無いか・・・?と、思考は迫り来る破砕音で途切れた 「ふたつ」 粉砕される瓦礫と共に、再び大きく外に放り出される 床に叩き付けられ、呻く・・・だが今はその痛みについて考えている場合ではない (やっぱり・・・数えている?) なるべく攻撃の手を控えているのは、一撃必殺に誇りがあるからでは無いのではないか? あのパンチの速さと威力ならば、私の銃撃の幾つかは拳で迎撃出来た筈だ(余りにも想像したくない光景だが、多分可能だろう) だがそれをせず、危なっかしい方法で回避した (しかも数えている・・・という事は) 結論はひとつ、彼女の『Gアーム』は私のそれと同様に、使用回数制限があるのだ ならば、勝ち目はあるかもしれない ただ 問題となるのは その勝利を手に入れる為には恐らくもう私には たったひとつの手段しか残されていない事 この闘いは 多くの代償を支払ってまで 勝つ必要のある闘いだろうか? 『G』が迫る 私には・・・ 『そうよヌル。準決勝で会いましょ』 理由は、それで充分だった 「マスター!残りのサイドボードを一式、送って下さい!!」 いつもそれを、サイドボードに入れてはいた(ただ、そもそも私は、サイドボードを使って闘う事自体が初めてだったのだが) だがその装備を、私は封印していた 理由は簡単 その装備を使うと危険である事が、私のオーバーロード、「ゴールドアイ」の「代償」だからだ マスターは、知っている 私がこのオーバーロードを入手した時に、神姫体付けの拡張装備を使用すると、神経系が破損してゆく体になってしまった事を マスターは、知らない 残りのサイドボードとは即ち、“サバーカ”、“チーグル”、DTリアユニットplus + GA4アーム・・・まさにその体付けパーツである事を・・・! 電撃を受けたような衝撃が、私の体を貫いた 「結果、出ました」 「で、どうだった?」 暗い部屋でパソコンのモニタに向かっていた男が振り返る 逆光で、本当におぞましい怪物か何かに見えた 「実質上の未来予知が可能な『ゴールドアイ』の前には、いかな『ジェノサイドナックル』とて無意味です。『ニビル』の勝利に終わりました」 事務的な口調で応える・・・この男の前では彼女はいつもそうしていた 「ニビルは『ゴールドアイ』を使ったのだな?」 ねちこく、重ねて男は問うた。満足のいく応えに対し、数瞬自らの考えに沈み、すぐに口の端が吊り上る 「ククククク・・・ふはっはっはっは・・・・・・!ならば良い!これで少なくともあの筺体は、現状で望み得る最良の蟲毒壺としての状態になったわけだ!フハハハハハ!!」 「闘うがいい!木偶人形ども!俺の・・・俺の『G』の為に!!!」 高笑いと独り言を繰り返す男を見ながら、キャロラインは拳を硬く握り締めた 剣は紅い花の誇り 前へ 次へ
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ウサギのナミダ ACT 1-13 ◆ 「って、菜々子ちゃん! 大丈夫なのかよぉ……」 大型筐体に一人座り、黙々と準備をする菜々子に、大城はそわそわと話しかけた。 大城の心配ももっともだ。 このゲームセンターで最強と呼ばれる三人とスリー・オン・ワン……三対一の同時プレイで対戦するというのだから。 いくら有名なエトランゼといえど、実力者三人を同時に敵にするのは圧倒的に不利だ。 「大丈夫。絶対に負けない」 菜々子ははっきり言いきった。 ミスティは菜々子を見上げた。 「……『本身を抜く』のね?」 「そうよ。わたし、キレたから。もう徹底的にやる」 「やっとキレたの? わたしはもう先週からキレっぱなしなんだけど」 無表情に話す二人に、大城は空恐ろしいものを感じずにはいられない。 「なあ……ほんみをぬく、って、なんのことだ……?」 「見ていればわかるわ」 菜々子は筐体の向こう側にいる、三強の男達を見た。 三人とも、こちらを睨みつつ、バトルの準備をしている。 スリー・オン・ワンで相手をする、と言ったら、男達は激怒した。 「なめやがって……!」 捨て台詞を吐いて、バトルを承諾した。 菜々子の思惑通りに事は進んでいる。 頭に血が上っていては判断が鈍る。そして、三対一という圧倒的優位からの油断。 もちろん、それらを生かすための実力があってこその策略だった。 菜々子は、耳元のワイヤレスヘッドセットをオンにすると、マイクに囁きかけた。 「ミスティ、リアルモード起動。入力コード“icedoll”、タイプ・デビル」 菜々子は三強の男達をもう一度見て、そして目を閉じた。 意識を切り替える。 あれは『対戦相手』じゃない…… 『敵』だ。 再び菜々子が目を開いたとき、バトルの準備は整っていた。 三強とエトランゼのスリー・オン・ワン対決と知り、ギャラリーが続々と集まってきた。 都合がいい。 バトルの見届け人として、そしてバトル後の相手として、ギャラリーは多いほどいい。 うるさい連中は、実力で黙らせる。それがエトランゼの流儀だ。 「ミスティ、調子はどう?」 「問題ないわ、ナナコ」 勝つ。 菜々子には確信がある。 この程度のバトルに勝てなくちゃ、『ヤツ』を倒すなど夢のまた夢だ。 菜々子は鋭い表情のままスタートボタンを押した。 近代的なビルと、その間を縫うように走るハイウェイ。 都市ステージは立体的なバトルフィールドが特徴だ。 三強とエトランゼ、どちらも持ち味の生かせるフィールドとして、ここが選択された。 『ヘルハウンド・ハウリング』は、そのハイウェイのど真ん中で、正面と背後に気を配っていた。 『エトランゼ』が来るとすれば、やはりフィールドを横切って走る、このハイウェイだろう。 エトランゼは、トライク形態からの反転奇襲が得意技だ。 だから、防御力の高いハウリンのヘルハウンドが待ちかまえ、エトランゼを足止めする。 そして、後から合流した二人と、三人がかりで仕止める。 エトランゼは、ヘルハウンドもたびたび対戦したが、勝てない相手ではなかった。 それが三強をいっぺんに相手にして、かなうはずがない。 さあ、来い。 ヘルハウンドはハイウェイの先を鋭く見据えた。 ……まさか、待っている相手がビルの上から降ってくるとは、思いもしなかった。 「ぎゃっ!?」 強い衝撃と共に、いきなりうつ伏せに押し倒された。 振り向くよりも早く、背面に設置された二本の武装用アーム……ヘルハウンドの名の由来が、ばりばりと引き剥がされる。 何が起こっているのか。 そんなことさえ確認する余裕も与えられなかった。 エトランゼは、手にしたマシンガンの引き金を引き絞り、ヘルハウンドのアーマーが隠していない後頭部と腰に、まるでリベットの打ち込み作業をするように撃ち込んだ。 ヘルハウンドと合流すべく、『ブラッディ・ワイバーン』は滑空していた。 ウェスペリオーの素体と羽、脚から先がイーアネイラの魚型パーツになっている。 マスターが言うには、昔見た強い神姫の武装を参考にしているという。 確かにこの武装は、空を自由に飛ぶのに適していた。 空中から、足止めされているエトランゼを狙い撃ちにするのが、ワイバーンの役目だった。 だが。 下方から銃撃を受けた。 ワイバーンは驚く。 足止めどころか、エトランゼはハイウェイ上でワイバーンを待ちかまえていた。 あわてて、こちらも銃撃を開始する。 直後、エトランゼの緑色の副腕が何かを投擲した。 大きな何かが、ワイバーンを直撃する。 それは、ヘルハウンドの残骸だった。 「うわああぁ!」 バランスを崩し、高度を下げる。 そこに、間髪入れずにジャンプしてきたエトランゼが迫る。 剛腕一閃。 ワイバーンの右羽を根本からもぎ取った。 そして、その勢いを借りて反転し、さらに剛腕が振るわれる。 エアロ・チャクラムが、今度はワイバーンの素体を捕らえる。 力任せに掴むと、ハイウェイ脇に立つビルの壁に叩きつけた。 「あああああっ!」 ワイバーンはビルにめり込み、エアロ・チャクラムに押さえ込まれ、身動きがとれない。 逃げようともがいても、抜け出す術はなかった。 エトランゼが装備していた太刀を引き抜く。 視線が合う。 イーダ・タイプの赤い瞳は、まったく感情に揺れていなかった。 ただ、殺意だけが、込められていた。 ワイバーンが恐怖にすくみあがったのも一瞬だった。 彼女の胸に太刀が突き立てられた。 大城は息を詰めてバトルを見ていた。 背中に冷たい汗が流れている。 斜め前で筐体を前に座っている菜々子は、いつもと様子が違っていた。 いつもはミスティと楽しげにやりとりをしながらバトルしているが、今日はやけに静かだ。 指示用のワイヤレスヘッドセットに、小さな声で短くささやく。それだけだ。 そしてミスティは返答さえしない。 バトルは一方的な展開を見せている。 ミスティはこんなに強かったのだろうか? 今日の菜々子とミスティは何かが違う。 疑問と不安を抱きながら、それでも大城はバトルから目が離せなかった。 『玉虫色のエスパディア』は、もうバトルが終わっているかも知れないと思っていた。 三強二人を相手に、いくらエトランゼが強者とは言え、何分も持つとは思えない。 もう勝負の趨勢は決していることだろう。 低空から、ハイウェイの先の様子を見定めようとする。 確かに、勝負の趨勢は決していた。 ハイウェイの先、仲間二体の残骸があるのを目視した。 「ば……ばかな!?」 玉虫色は空中で急停止すると、逆向きに方向転換。 元来た方向へ加速する。 少なくとも、エトランゼはあの残骸のそばにいるはずだ。 とりあえず距離を取る。 それから対策を立てる。いままでも対戦して勝てない相手ではなかったはずだ。 だが、玉虫色の脳裏に、すでに残骸と化した二人の姿が浮かんだ。 ……まだ、バトル開始から、二分も経っていないじゃないか! 本当にエトランゼなのか!? そう思った玉虫色の耳に、ホイールの回転音が聞こえてきた。 まさか、と思って振り向いた瞬間、トライクが猛然とハイウェイを走って来るのが見えた。 ハイウェイの下道から、合流ラインを抜けて、メインのハイウェイへ。 トライク形態のエトランゼは、一気に加速すると、玉虫色を下から追い抜いた。 視線を前に戻したときには、すでにエトランゼはストラーフ形態に変形し、反転を開始していた。 リバーサル・スクラッチ。 まぎれもなく、エトランゼのオリジナル技だった。 エアロ・チャクラムが玉虫色に思い切り叩きつけられる。 仰向けに押し倒されたエスパディアは、組み替えてあった背部アーム装備の機銃を狂ったように乱射する。 それを意にも介さず、エトランゼは副腕を動かして、玉虫色の装備をむしりとりはじめた。 前輪のタイヤがはじけ飛び、副腕の装甲に弾痕が走る。弾丸がバイザーに当たり、頬をかすめても、エトランゼはいっこうに気にした様子がない。 まるで、意志がない機械のように。 黙々とエスパディアの装備を引き剥がしていった。 そして、素体だけの姿になったところで、胸のあたりを副腕の爪で掴みあげた。 その姿をさらすように持ち上げる。 「ひいいいいいぃぃっ! や、やめ……やめてやめてぇっ!!」 玉虫色は悲鳴を上げる。 しかし、エトランゼは一切表情を変えない。 菜々子が一言、囁いた。 次の瞬間。 「いやぁああああああああっ!!……」 断末魔の悲鳴が、無人の都市に響きわたった。 玉虫色の身体には機械の爪が食い込み、つぶされていた。 ハイウェイ上に無惨に転がるハウリンの残骸、ビルに磔になったウェスペリオーの残骸、そして、副腕の爪にいまだ引っかかったままのエスパディアだったモノ。 それらを背景に、逆光の黒いシルエットが立ち上がる。 ミスティが顔を上げた。 表情はない。ただ、殺気に満ちた赤い瞳だけが爛々と光って見える。 「あ、悪魔……」 誰かの呟き。 それと同時に、ジャッジAIがエトランゼの勝利を告げた。 試合時間は二分二十七秒だった。 アクセスポッドが開く。 ミスティは立ち上がると、筐体の回りのギャラリーを見渡し、そして正面の三強のマスターと神姫達を睥睨した。 誰も一言も発しようとはしない。しんと静まっている。 驚きと畏怖が、エトランゼの二人以外の意志を奪っていた。 ミスティは、先ほどのバトルの時とはうってかわった怒りの表情で怒鳴った。 「よわっちい連中が……こそこそ陰口叩いてんじゃないわよ!」 いまにも噛みつかんばかりに、周囲を威嚇している。 逆に、菜々子は氷のように冷えきった表情だ。 「宣戦布告よ」 薄く目を開け、三強に、そしてギャラリーに向けて宣言する。 「私たちは……エトランゼは、ハイスピードバニー・ティアにつくわ。 文句があるなら、バトルロンドで私たちに勝ってから聞いてあげる。 言いたいことがある人から……」 ミスティと菜々子の声が重なった。 「かかってらっしゃい!!」 ギャラリーがどよめいた。 いま、ハイスピードバニー・ティアを擁護するということは、このゲーセンの神姫プレイヤーだけでなく、すべての武装神姫を敵に回すに等しい。 菜々子はそれをはっきりと公言してのけたのだ。 「そ、そんなこと言ったら……誰も君の相手なんてしなくなるぞ!? それでもいいのかよっ!?」 ワイバーンのマスターの言葉はほとんど悲鳴だった。 菜々子はワイバーンのマスターを、氷の眼差しで睨みつける。 「上等よ……練習にもならないバトルなんて、こっちから願い下げだわ」 吐き捨てるように言う。 ワイバーンのマスターは、怒り心頭の様子だったが、ぐうの根も出ない。 他の二人も同様だった。 ギャラリーの目の前で、三対一で完膚無きまでに叩きのめされたのだ。三強としてのプライドも粉々に打ち砕かれた。 今、彼らが何を言っても、負け犬の遠吠えにしかならない。 三強のマスター達は、菜々子の激しい言葉にも、黙って耐えるしかなかった。 いまだに皆が立ち尽くしている中で、菜々子は黙々と後片づけをはじめた。 そこに大城が声をかけてくる。 「……ミスティってあんなに強かったのか……知らなかった」 その言葉に菜々子は首を振る。 「違う……あれはバトルロンドと呼べないわ。だから、あなたの言う『強さ』じゃない」 「け、けどよ……圧勝だったじゃねぇか。三強と三対一で勝つなんて、信じられねぇよ」 大城の声はうわずっている。 彼も感じているだろう。いつもと違うわたしたち。 いつもと違う、あまりに凄惨なバトルの内容に、引いているだろう。 「あれが、『本身を抜く』ってやつなのか? なんで……ミスティがあんな風に戦えるんだ?」 虎実が尋ねた。 菜々子は頷いた。 「『本身を抜く』っていうのは、真剣を抜いて戦うってこと。その心構えと戦い方で戦うってことよ」 大城と虎実は、よくわからない、といった顔をしている。 「そうね……剣道に例えればわかりやすいかしら。 防具着て竹刀でやる試合と、真剣での果たし合い。その違いってこと」 近代剣道の試合は、防具をつけ、竹刀を持ち、有効部位への打突をもって、審判が判定を下す。いわば模擬戦闘だ。スポーツであり、ゲームである。 対して、真剣での果たし合いは、防具はあるものの、持っている武器は真剣である以上、傷つくことは避けられない。攻撃がどこに当たろうとも、相手の戦闘力を奪い、相手を倒すことが優先される。つまりは命の奪い合いなのだ。 これを武装神姫に例えてみればどうか。 隆盛を極めるバーチャルバトルは剣道に当てはめられる。 ファーストクラスのリアルバトルでさえ、審判がいてルールがあるから、剣道の方に入る、と菜々子は考えている。 ルールの下で戦うが故に、バトルロンドにはそれに適したプレイスタイルが求められる。 「わたしだって、バトルロンドは楽しくプレイしたいわ。だから、バトルロンドに適した戦い方をするし、そういうつもりでプレイする。 でもね、『実戦』は違うの……つまり、真剣での果たし合いと剣道の試合が違うように」 菜々子の言う「実戦」は、ルール無用、審判なしのリアルバトルだ。バトルの結果が神姫の命に直結するような、紛れもない殺し合いである。 それは剣道の試合とは心構えからしてまったく違う。 「そうか……本身を抜くってのは、殺し合いをする気ってことのたとえなのか」 菜々子は頷いた。 「そう。 三強は剣道の試合をしようとしてるのに、わたしは真剣で彼らを殺そうと思っていたのよ。 そのためには自分のプレイスタイルにもこだわらないし、何より敵を早く確実にしとめることを優先する。 彼らは、あくまで「エトランゼとバトルロンドで試合しよう」としていた。 その心構えの差が、結果に現れたのね」 「なるほど……」 たとえ三強が、今度はミスティを殺すつもりで戦うとしても、それは結果につながらない。 なぜなら、彼らは「実戦」というものをまったく知らないからだ。 とするならば、菜々子とミスティは、その実戦を経験したことも、その心構えも、実戦向けの戦い方もあるということなのだが……。 「なあ、菜々子ちゃん……」 「本当なら、『本身を抜く』なんてこと、ずっとするつもりなかった」 大城の言いたいことを遮り、菜々子は早口でしゃべる。 「ここでは……遠野くん達がいるから、絶対にしないと思ってた。わたし自身の問題で身につけているものだし、バトルロンドでは使わないことにしてた。必要もなかった。 もしかしたら、もう『本身を抜く』なんて、忘れてもいい気さえしていたの。 ……でも、遠野くん達のために、自分にできることをすると、決めたから」 装備を片づけたアタッシュケースを閉める。 そして菜々子は大城に視線を移した。 「だから、わたしは全力を尽くす。本身だって抜くわ」 大城は菜々子の大きな瞳をみつめた。 真っ直ぐな視線。揺らがない。 誰かに似ている。 ああ、と大城は思い至る。 遠野だ。あいつの視線にそっくりだぜ、菜々子ちゃん。 大城は小さくため息をつきながら、頭を掻いた。 「まったく……惚れ直すぜ」 「それはダメ」 菜々子はいたずらっぽく笑い、人差し指を立てた。 「わたし、好きな人がいるから」 その笑顔を見て、大城はほっとする。 ようやくいつもの『エトランゼ』が戻ってきた。 次へ> トップページに戻る
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左腕と左脚、左の乳房のみを「サイフォス」ベースの装甲で覆った姿でエルギールはヴァーチャルスペースに現れた 金管楽器の様な凄まじく派手な銀色の装甲は、今回のフィールドである湖畔の風景を見事に天地逆さまに写している 『随分軽装だな?まぁホントの白兵戦になりゃぁ神姫用の武器は「避けられない」方がヤバいって言うし、ある意味ありっちゃありか?でも所詮そんだけだろ?ビシッとキメてやろうぜ!華墨』 (確かに軽装だ・・・が・・・・) 武士の台詞を華墨は半分聞き流している ここ数回のバトルで、華墨は少しずつではあるが自らのデフォルト武装の取捨選択を始めていた 初戦の教訓と「どうせ相手に密着するのだから」という事で、十字戟もメインボードから外し、主力武装は腰の大小に、やや肩周りの可動を阻害する肩当を捨て、ジョイントを介して「垂れ」の部分だけを直接装備、鬼面と喉当ても外していた 最後の二つは今回のバトルに際して急遽実行したのだが、それというのもポッドに入る前にちらりと、エルギールの主力武装とおぼしきものを目にしたからだ それは剣呑な黒い刀身に、禍々しい朱い模様がうねうねと描かれた、非常に大振りなダガーだった(殆どショートソードと言っても良かったかも知れない) 神姫が外出する時に、手持ちの得物の中から携行に便利な物を選んで持ち歩くというのは聞いた事があるが、華墨には何故だか判らないがそれが「護身用の武器では無い」という強迫観念めいた確信があった それで、視界と装甲の二択に(勝手に)迫られて、結果折衷案で、「兜は残して仮面は外す」という結論に至った訳だ いずれにしても、未だに胸の奥をざわざわと撫でられる様な感覚はおさまらず、目の前の軽装な姿を、武士程楽観視出来無いのだった 第伍幕 「Merciless Cult」 自分と相手の戦力差がどの程度なのか?正確に把握するには結局ぶつかってみるのが一番良い。華墨は覚悟を決めた ざくざくいう足音と共に、バーチャルの下生えが踏み潰されてゆく。(いける、いつもの私だ)ポニーテールを地面に水平になるくらい迄浮かせながら華墨は走る。右手で太刀を抜き放ち、気合一閃、一気にエルギールに斬りかかる! 白刃が虚空に白い影を描き、華墨の天地は逆転する。遅れて知覚される苦痛 「ハン!速さと装甲にモノ言わせて真っ直ぐ突っ込んで殴るだけの、単なるゴリ押しじゃない!?案の定大した事無いわね?」 (なんだ!?何をされたんだ?今!?) 地面を抉る程に叩き付けられた華墨だったが、即座に立ち上がり、エルギールから距離をとる 「どうしたの?躓きでもしたのかしら?ホント情っさけ無いわね」 憎まれ口を叩くエルギール。その手に武器らしきものは握られていない。華墨が警戒していた短剣も、まだヒップホルスターの中だ 「・・・」 「つば」を鳴らして太刀を構え直す。いつもの様に、加速をつける為の攻撃型ではなく、切っ先を相手に向けた防御よりの型だ 「・・・アタシってそんな気が長い方じゃ無いのよね・・・来ないんなら」 ヒップホルスターから短剣を抜き放つエルギール。一瞬、朱色の模様が生物の様にうねった・・・様に感じた 「こっちからブン投げてやるまでよォ!!」 「!!」 明らかに短剣が届く間合いではなかった、が、エルギールの剣は鋼線で接続されたいくつかの節に別れ、異様な動きでもって華墨の左腕に巻き付いたのだ。食い込んだ刃が、華墨の人工皮膚を・・・裂く 「くそっ!!」 鋼鉄の毒蛇に腕を拘束されたまま切り込む華墨。だが、引き手を殺されたへたれた斬撃は、あっさりとエルギールの腕甲でいなされ、挙句そのまま首を掴まれる (・・・ぐっ!) くぐもった呻きが漏れる。それは人間的な条件反射だが、神姫が「人がましく」振舞う為に動きの基礎に組み込まれている 「けだものを捕らえるには罠を使うでしょう?アタシはその罠。さぁ、ホントのアタシのフルコンボってやつを見せたげるわ!!」 首を掴んだ左手が捻られる、同時に右足が払われ、左腕の拘束を引き外す動きでそのまま吊り上げられる (これが・・・!?) 「まずは天(転)」 異様な体勢で転ばされ、なんとか残った右腕で受身を試みる 「間に人(刃)」 ぞぶりだかどすだかいう様な汁っぽい音と共に、引き抜かれ空を舞っていた刃が右腕に突き刺さる たまらず、そのまま顔面から地に倒れ付す華墨。打撃系の衝撃が、装甲ごしにでも強烈なダメージを全身に及ぼした 「最期は地に血の花を咲かせて逝きなさいな!アンタの名前に相応しい幕切れじゃない!!」 エルギールの哄笑、無理矢理体を起こそうとする華墨だが、最早戦闘能力が無きに等しいのはいかなる目で見ても明白だ (立ち上がる・・・ちから・・・) 武士が何かを叫んでいた、残念ながら華墨には何を言っているのか全く判らなかったが・・・ (ここで立ち上がる・・・ちからが・・・) だが、そんな力は華墨の中には無かった。愛も、怒りも、不屈の意思も、未だ華墨は本当の意味で理解など出来て居なかった 虚ろに過ぎるジャッジのマシンボイスを、ヴァーチャルスペースに全く意識があるままに、華墨は聞いていた 「華墨・・・負けちまったのか・・・?」 武士は腰を浮かせて、呆然とディスプレイを見ていた その肩に琥珀の小さな、冷たい手が掛かる迄、武士は彼女が入ってきた事にすら気付いていなかった 「ね、判った?闘うってこういう事なんだよ。体はヴァーチャルでも、彼女らが感じる恐怖は本物なんだ。」 小さな、だがはっきりした声だった 「だって・・・武装神姫って、バトルする為に創られたんだろ?」 のろのろと首を回す武士。琥珀の、多分名前の由来なのだろう琥珀色の瞳は、感情を深い所に隠していて、思考を読み取る事は今の武士には不可能だった 「確かに彼女達は闘う為に創られた。でもね、闘争本能を持たされていても、彼女達が本当に闘いを望んでいるかどうかは判らないんじゃないかな?」 「・・・え?」 「判らない?君は彼女のマスターだけど彼女は本当の意味で『君の神姫』になっているのかな?」 「当たり前だ!神姫は登録した人間をマスターとする様に出来てるんだろ?」 語気を強める武士、だが琥珀の口調にも表情にも、僅かな変化も見られなかった 「プログラムされた知性、プログラムされた感情、なら、忠誠心だってプログラムされたものなんだろうね」 「・・・」 にこりともしない、が、別に怒りも悲嘆も、いかなる色も彼女の表情には現れないのではないかと、武士は思った 「・・・」 「プシュ」と空気の抜ける様な音がして、華墨のバトルポッドが開く ゆっくり顔を上げる華墨に一瞬目をやってから踵を返す琥珀 「じゃ、するべき事はしたから・・・縁があったらまたね・・・」 視線だけ二人に向けて言い放つと、もうそのまま、むにむにと柔らかい足音だけ残して琥珀は去っていった 「・・・負けてしまったよ・・・マスター・・・」 「・・・あぁ・・・」 ここで取って付けた様な労いの言葉を吐く事が出来るのか?吐く資格があるのか?労ってやるべき存在?神姫は・・・? 玩具にそれをするのか?人間にそれをしないのか? 「・・・無事でよかったよ」 武士は恐ろしくばらばらな表情でようやくそれだけ吐くと、華墨を抱え上げポケットに入れ、無言でブースから出るのだった 「見事な『壁』役だったね」 「僕は厭だよ。本当はこんな役なんて」 「買って出た苦労だろう?私は何も頼んじゃいない」 「・・・・・」 「・・・君にとってはどうなんだい?」 「何がさ?」 「神姫とは高性能な知性を持った玩具なのか・・・?身長15センチの人間なのか・・・?君が佐鳴武士に叩き付けた問いについて・・・だよ」 「・・・そういう話は川原さんとでもしてなよ。帰ろうか?エルギール」 主よりも遥かに派手な神姫を肩に乗せて去る少女を見ながら、皆川はいかにも意味ありげに不気味に微笑んで見せるのだった 剣は紅い花の誇り 前へ 次へ
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交差点の向こうに走り去る少年の背中を見て、男は静かに呟いた。 「……行っちまったか。峡次のヤツ」 腫れ上がった頬をさすりながら、ゆっくりと立ち上がる。全力で山ほど殴られた所為か、まだ頭にはわずかに揺れる感覚が残っていた。 「何とかなる……と思いたいですけれど。あの子も一緒ですし」 引き抜いた刃を白鞘に納めつつ、サイフォスタイプの少女は肩をすくめてみせる。 峡次がオーナーに向かって駆け出したとき、彼女は彼からしっかりと飛び離れていた。その代わり、鳥小に投げられて倒れ込んだ彼の元には、一番最初に駆け寄っていた。 「そうでないと、困るけどな」 辺りを見回しても姿が見えないから、今もきっと一緒にいるはずだ。 たぶん。 少々反応の鈍い娘だから、途中でふり落とされてなければいいけれど……と、少女は心の中で祈りを捧げた。 「……オーナー」 「俺もちょっとはしゃぎすぎたよ。悪かっ……」 オーナーと呼ばれた男は、自らの巨躯を腕一本であっさりと投げ飛ばした少女に笑いかけ。 「たね、じゃねえっ!」 その笑顔を貼り付けたまま、肩から来た衝撃に横殴りに吹き飛ばされた。 再び二転、三転して、容赦なくアスファルトに沈むオーナーの巨体。 「店の前でケンカするのが店長の仕事かっ!」 その前にそびえるのは、鉄塊を削りだしたかのような大剣を右手で突き、緑の髪を右側で結んだ、ツガルタイプだ。 その剣の如き視線。炎の如き怒り。十五センチの小さな体は、今は十五メートルに匹敵する威と圧を併せ持つ。 「ア、アキさん……」 鳥小はおろか、身長二メートル近いオーナーでさえ、彼女の前には言葉を失ったまま。 「なにやってんだお前ら! そこ座れ! そこ!」 「は、はいっ!」 鳥小、オーナー、サイフォスの娘。 それに加えて、騒動の成り行きを見守っていた客の少女とその神姫もがアスファルトに正座する。 「ウチが何の店か、忘れちゃいねえよなぁ? 鳥小」 「……ドールショップです」 背中にかかる『真直堂』の看板には、控えめだがしっかりと「ドール取り扱い」と記されていた。 「それから!」 「……神姫の仕事斡旋所です」 大きな体を縮こまらせて呟く、オーナー。 看板の上にある窓からは、二十を超える神姫達がひしめき合うように顔を出していた。 二階の縫製所で働いている、アルバイトの神姫たちだ。 「ウチで預かってるお嬢様がたが、変なこと覚えちまったらどう責任取るつもりだ? あぁ!?」 一番悪影響を与える存在は、目をつり上げているツガルだろう……とその場にいる誰もが思ったが。 それを口に出せるものは、誰一人としていなかった。 マイナスから始める初めての武装神姫 その7 後編 涙でにじんだ角を曲がり。 裏路地の段ボールを跳び越えて。 息を切らせた苦しさは、大通りの直線を加速して紛らわす。 人ごみで肩がぶつかって、後ろから罵声が聞こえてきたけど……吐き出す息の音で、無理やりにかき消した。 肺が痛い。 腕が痛い。 足が痛い。 喉が痛い。 目が痛い。 頬が痛い。 背中が痛い。 痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。 その痛みで、もっと痛いところの痛みと混乱を強引に上書きして。 俺は秋葉原の街を全力で駆けていく。 「…う……ぁ……」 また誰かにぶつかったのか、女の人の声。 ごめん、と心の中で謝って、俺は速度を緩めない。 「…じ、さぁ……ん」 また? 酸欠気味で頭がクラクラしてるから、体の感覚も怪しげだ。けど、それでも肩や腕にぶつかった感触くらいは残るはず。 そういえば、さっきの声がしたときもぶつかった感じはしなかった。 「きょ……さぁ……」 ……あれ? 罵声じゃない。 俺の名前を呼ぶ声だ。 「峡次……さぁん……」 ……まさかと思いながら歩を緩めてみる。 背中に伝わってくるのは、俺のシャツの裾から伝わる妙な重み。 手を伸ばせば、小さな体がぶら下がってる。 「……ノリ!?」 ちょっと待て! 俺は慌ててノリの体をすくい上げ、人の来ない歩道の隅へ移動する。 「や、やっと……気が付いてくれたぁ……」 俺の手の中にへたり込んで、息を切らせてる小さな体。 「ご、ごめん。大丈夫!?」 こいつ、全力で走る俺の裾にずっと掴まってたのか。 「は、はぁ……何とか」 バイザーを閉じたまま、ノリは力ない笑顔でそう答えてくれた。 ……バカ。俺のバカ! 広いお寺の境内で……お寺っていう建物を初めて見るので、ホントは広いのか狭いのかは良く分かりませんでしたが……峡次さんはベンチに腰を下ろして、膝の上にわたしを乗せてくれました。 肩の上だと横顔しか見えなかったけど、ここからだと峡次さんの顔がちゃんと見渡せます。 「ほい、ノリ」 元気のない様子の峡次さんが差し出してくれたそれは、さっき入口の売店で買っていた白いクリームの塊でした。そっと口を近付けてみたら、クリームの感触よりも先に、冷たい空気が唇に触れて。 「冷たぁい」 触れたクリームは、その空気よりも冷たいのに、今まで触った何よりも柔らかくて。 舌を出してみたら、そのまま舌先ですくえちゃいました。 「美味しい?」 甘くて、冷たくて。 「はいっ! とっても!」 確か、売店の看板には『ソフトクリーム』って書いてあったっけ。 「そっか」 峡次さんはわたしの口元に付いたクリームを指先で拭って、少しだけ笑顔。そのまま口を大きく開けて、クリームの山の半分をまとめて削り取りました。 あ……。 ソフトクリーム、もっと食べてみたかったけど……峡次さんのぶんを分けてもらったんだから、もう我慢です。峡次さんはわたしの何十倍も大きいから、何十倍も食べないと同じ『おいしい』にならないんですから。 「………?」 けど峡次さんは、そんなに美味しそうじゃないみたい。ソフトクリーム、嫌いなのかな? 「ごめんな。変なところ、見せちゃって」 それが、さっき店長さんと戦ってたことだって思いつくまで、少し時間がかかりました。 「いえ……。あの店長さんは?」 少なくとも、わたしの『一般常識』のライブラリには、初対面の人と殴り合うあいさつの仕方は載ってません。地方の風習まではフォローしてないから、峡次さんはそういう習慣のある所で生まれたのかもしれませんけど。 「……兄貴」 えーっと、兄貴=お兄さん。同じ親から生まれた年上の男……って。 「そ、そうなんですか?」 お兄さんとは、殴り合うのがあいさつの仕方なんでしょうか? わたしには姉妹はいないから、良く分かりません。 でも、ベルさんやプシュケさんとは殴り合わなかったです。それとも、さっきの戦闘は神姫バトルに相当するコミュニケーション行為なんでしょうか……? 途中で鳥小さんも参戦してましたし。 「ああ」 ソフトクリームの下の、茶色いところをパリパリと食べながら、峡次さん。 あ、あの……そのパリパリも、食べて……。でも、峡次さんのだから、ダメだよね……うん。我慢、我慢。 「結構、凄い人だったんだぜ? 大学の研究室で、CSCの開発に関わったとか、神姫の素体の研究をしてたとか……」 CSCはわたしの胸に入ってる『心』の部品。 素体は、この体のこと。 っていうことは、峡次さんのお兄さんは……。 「じゃあ、わたし達の生みの親……?」 「……どこまでがホントかは知らないけどな」 峡次さんは楽しく無さそうな笑い顔を浮かべると、手の中に残った三角の紙をくしゃりと丸めて、隣のゴミ箱へ。 さようなら、ソフトクリームさん。おいしい思い出をありがとう。また、会えます……よね? 「ただ、神姫や武器作りの腕は本物だった。兄貴のハウリン……クウガは、俺が知ってる中じゃ最強の神姫だったしな」 クウガさんっていうのが、お兄さんのハウリンタイプの名前みたい。 第二期モデルの犬型神姫・ハウリン。砲戦特化のわたしとは対照的なコンセプトを持つ、オールラウンダータイプの汎用神姫。 特化した能力はないけど、銃や砲撃だけじゃなくて、剣も格闘も何でもこなせるスゴい子です。 「なら、何でそんな人にキックを……?」 峡次さんは、そんなお兄さんのことが大好きなんでしょう。クウガさんの名前を出した時の峡次さん、ソフトクリームを食べた時より嬉しそうでしたし。 「……さっきの店、見ただろ?」 寂しそうな問いに、わたしは小さく頷きました。 真直堂、ですよね。ちょっとしか見えなかったけど、可愛い服が沢山あって、すごく楽しそうなお店でしたけど。 「何か、腹が立って来ちゃってな。神姫界最速の神姫のマスターが、技術屋どころか何でドールショップなんかやってるんだって……な」 「……峡次さん」 その言い方がすごく怖くて、わたしは思わずバイザーを閉じました。 ホントは、バイザーの内側に映像なんて映らないんです。機械仕掛けのわたしの瞳の、画像情報を得る元が少し切り替わるだけ。 「ん?」 もちろん切り替わった後のセンサーもわたしの物だから、それが気のせいなのは分かってるんですけど……。バイザーひとつ挟むだけで、怖い顔を直接見なくて済む気がするんです。 「ホントは、クウガさんみたいな……ハウリンが、欲しかったんですか?」 だから、本当は言いたくなんかないことも、ゆっくりとだけど言えました。 「んー……まあ、な。最初はそう思ってた」 やっぱり。 わたしの胸のCSCが。峡次さんのお兄さんが作ってくれた部品が、きしりと嫌な音を立てた気がしました。 「なら……なんでわたしを返品しなかったんですか?」 胸が、痛い。 でも、ちゃんと言わないと。 「……返品?」 峡次さんは、わたしの言葉に首を傾げるだけ。 「私、あのお店で買われた神姫なんですよね? でしたら……」 フォートブラッグの基本スタイルは、砲戦特化。どれだけカスタマイズしても、装備を変えても、万能型になるには限界があります。あくまでも近付けるだけで、本当に万能型にはなれないでしょう。 それに、素体は戦闘用のパターン素体を展開出来ない不良品。服を着て戦うなんてイロモノの戦い方をしないと、恥ずかしくって戦うのも難しいでしょう。……主に私が、ですけど。 「……お前、返品されたいワケ?」 そんな! 「そんなわけないじゃないですか!」 CSCがかっと熱くなって、言葉が思わず流れ出ました。 返品なんてされたいわけありません。 けど、けど……! 「わたし、はだかですよ? 服を着て戦うのだって、ホントはしたくないんですよね?」 「……まあ、そうだけど」 峡次さん、昨日寝る前に通帳とにらめっこしてたの、知ってるんですよ? お金ない、バイトしなきゃって言ってたのだって、ちゃんと聞いてるんですから。 「わたし、近接戦って苦手ですよ? 峡次さん、近接戦ベースで神姫を組み立てたかったんですよね?」 「……何でその事を」 さすがにそれには峡次さんも驚いたみたい。 「峡次さんの部屋にあったの、組み立てかけの剣とか、加速用のパワーユニットとか、近接装備ばっかりじゃないですか」 わたしだって武装神姫。基本的な装備運用のシミュレートパターンくらいは入ってます。 もっとも、フォートブラッグのそれは自分で使うというよりも、相手の戦術を見極めるためのものだから……使いこなせるかどうかは別問題なんですけど。 「そう、なんだけどさ」 「たぶんわたし、クウガさんみたいな高機動戦は出来ないと思います」 わたしの脚は速度を叩き出すものじゃなく、確実に戦場を走破することと、砲撃の安定性を高めるためにある。 「だろうなぁ……」 「だろうなぁ……じゃなくて。わたし、砲撃しか出来ないんですよ?」 初期設定の戦術プログラムだって、弾道計算や弾種ごとのダメージシミュレートが主で、峡次さんがしたいような高速斬撃戦になんて対応してません。 その手の戦い方は、きっとベルさんやプシュケさんの方が得意なはず。 「何とかなるだろ」 何とかって……そんな、何とかなるなら……。 なるなら! 「わたしじゃ、マスターの期待に答えられないと思います! お役に立てないと思います!」 わたし、マスターのお役に立ちたいんです。 マスターの期待に応えて、喜んで欲しいんです。 嬉しい、ありがとう、って言って欲しいんです。 でも、バトルで一番の期待に応える方法は、これしか思いつかなくて……。 「……あのさ」 峡次さんは、わたしを向いてはぁとため息。 「はい」 嫌な音。 CSCが、何だかきしりと痛みます。 「バイザー、上げな」 「……はい?」 バイザー? 「バイザー。上げな」 「はぁ」 大きな手がいつ来るか怖かったけど、峡次さんの声に従って、バイザーを上げてみる。 バイザーモードから切り替えた視界は、ぼやけてよく見えなかった。喋りながら泣いてたんだと……わたしは、その時になって初めて気が付いた。 そして。 「ノリ……」 大きな手が、わたしに向かって延びてきて。 ああ、やっぱり……返品されるんだ。 でも、たぶんそれが一番いいんです。峡次さん。 次に来るハウリンには、わたしの分まで優しくしてあげて……。 「ん……っ」 思わず身を硬くしたわたしの目元を、峡次さんの太い指がそっと拭ってくれて……って、あれ? 「うん。ノリは、そっちのほうが可愛いよ」 峡次さんは、優しい笑顔。さっきまでの怖い感じは、もうしてません。 「……はい?」 このまま握られて、真直堂に返品に行くんじゃないんですか? 「ノリさ。今日、電車に乗っただろ」 ? 「はい」 話が良く分からなかったけど、とりあえず頷いておきました。 「すっごく喜んでたじゃない」 「……酔っちゃいましたけどね」 最初は景色がびゅんびゅん流れて、すっごく楽しかったんですけど……そのうち処理が追い付かなくなって、システムが落ちそうになっちゃいました。 「それでも、喜んでた」 「……はい」 頷くわたしに、峡次さんは笑顔。 「ソフトクリームも、美味しかった?」 「……はい、とっても」 もうちょっと食べたかったですけど。 でも……。 「後は……さっきの……」 「あぅう……」 あれはもっともっとしてほしかったですけど……。 「もちろんバトルもするよ? けどさ。そういうのも、なんかいいなーって思ったんだわ。今日」 「はぁ」 でも……。 「で、それが出来るのは、ノリだけなんだよな」 「……そんな、こと……。神姫なら、誰でも出来ることです」 ベルさんだって、プシュケさんだって。 お兄さんのタツキさんや、静香さんのココさんも……。起動したてのどんな神姫だって、さっきは怖かったもう一人のツガルさんだって、アイス食べたり、笑ったり、そんな事くらい簡単に出来るはず。 「うん。そりゃ、最初に起動させたのがハウリンだったら、そいつに同じ事を思ったかもしれないけどさ」 ですよ……ね。 だから、期待なんか……させないでください。 「でも、俺が最初に起動させたのは、ノリなんだよ」 だから……。 「砲撃しかできないなら、最高の砲撃が出来る武器を作ってみせるさ」 期待、なんか……。 「……峡次さん」 「それくらい出来なきゃ、神姫でバトルやっていきますなんて言えないしな」 バイザーを通さずに見た峡次さんの顔は、とっても優しくて。 「俺、頑張るよ。ノリが頑張れるように」 「……はい」 もぅ……。 この人は、なんで……。 「だから、ノリは……バイザーを上げて、笑っててくれ。多分、俺はそれで頑張れるから」 期待、しちゃいますよ? 「……いいん、ですか?」 「何が?」 「わたし、マスターのお側にいて」 ずっと、置いてくれるって。 返品なんか、しないって。 マスターの望んだ戦いの出来ない。砲撃しかできないダメな子でも、ずっと一緒に戦ってくれるって……望んじゃいますよ? 「ノリがいてくれなきゃ俺、どうやって神姫バトルすんのさ?」 ああ……っ! マスター! マスターっ! 「返品させる気がないなら、よろしくな。ノリ」 そう言って、マスターは手を差し出してくれて。 「……はい! はいっ!」 わたしはそう答えて、大きなその手に抱き付いていた。 マスターの手は、わたしを握り潰すことなんかしなくて……ただ、やさしく撫でてくれるだけだった。 戻る/トップ/続く
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第三話 「バトルフィールド・砂漠地帯。おーなーノミナサマハ神姫ヲすたんばいシテクダサイ」 ジャッジAIが無機質な声で会場の準備が整ったことを伝える。 神姫同士の戦い、すなわちバトルロンドは大きく分けてバーチャルバトルとリアルバトルの二種類がある。 バーチャルバトルは文字通り「仮想現実空間でのバトル」で、常に最高の状態で戦えるのが特徴だ。 何より神姫が壊れることもない。ただし、バトル中に味わった恐怖をトラウマとしてそのまま引きずることもあるので一概に安全とは言えないが、これの普及も武装神姫がここまで流行った理由の一つである。 逆にリアルバトルではふつうに実弾が飛び交い、神姫も実際に損傷する。 しかし、こっちはこっちでバーチャルにはないスリルが楽しめる。 さらに、バトルの公正さを保つために個々の神姫にはランクというものが与えられている。 これは一定のポイントをためるとランクが上がるというモノで、勝てば成績に応じてポイントが与えられ、負ければその分相手に奪われる。さらに、格上の相手に勝てばたくさんポイントがもらえ、逆に格下に負けてしまった場合、最悪降格もあり得る。早い話が弱肉強食だ。 全部で五段階あり、上からプラチナ>ゴールド>シルバー>カッパー>ブロンズの順に低くなっていき、上に行けば行くほどリアルバトルが数を増してくる。 ちなみに優一のアカツキはシルバーランクの中堅どころをキープしている。 そしてスペックが異常な違法パーツや反則行為は厳しく規制するレギュレーションもそれに一役買っている。 しかし、中にはルールギリギリのヒールファイターもいるものである。 「アカツキ、危なくなったらギブアップもして良いぞ」 「「最後まで諦めるな」って教えたのはマスターでしょう?絶対勝ってきますよ」 「そう来なくっちゃな。それでこそ俺の神姫だ」 クレイドルのハッチが閉じられ、ロードが始まる。その間に優一は可能な限り情報を集めにかかった。 「障害物と呼べるのは岩場とサボテンくらい・・・、サバが地面に刺さっているのはギャグとして受け取っておこう。 とれるレンジは自ずと離れざるを得ないからアカツキにとっては有利だな」 そうこうしているうちに互いの神姫がバーチャル空間に転送されてきた。 アカツキはアーンヴァルのデフォルトである白い翼のようなフライトユニット・リアウィングAAU7を背中に、 左腕にはガードシールド、頭にはヘッドセンサー・アネーロ改を装備している。 これは天使コマンド型・ウェルクストラのデータをフィートバックした最新鋭モデルだ。 いや、アカツキ自身もアーンヴァルの上位機種である「アーンヴァルトランシェ2」と呼ばれるモデルだ。 当然性能も並のアーンヴァルのより少しは上である。 武装は右手に標準的なアサルトライフルを持ち、M4ライトセーバーを両腰のホルスターに収めている。 予備の武装であるLC3レーザーライフルと2種類のカロッテ、蓬莱壱式を改造したロケットランチャーとMVランスは まとめてサイドボードに格納されている。 対するジャンヌは漆黒の鎧に身を包んでいるが、装備している武器は火器ばかりだ。 あれでは完全にサイフォスの特徴を完全に殺してしまっている。 自分ならバランスのとれたヴァッフェバニーのバックパックにランスと二本の剣に加えて補助でサブマシンガンか、ハンドガンを1,2丁持たせる。 「バトルロンド、セットアップ。レディ・・・ゴー!!」 「さあジャンヌ、あの天使型の子を血祭りにあげておやり!!」 「イエス・マスター!」 試合開始のブザーが鳴ったと同時にジャンヌが全身の砲を一斉にぶっ放してきた。 「あの神姫、スポーツマンシップってモノが無いんですか?」 「神姫に罪は無い。それと避けないと木っ端微塵だぞ!」 「わかってますよもう!」 アカツキはアウターバーナーを噴かして急上昇し、辛うじて回避する。こうなると戦術は一つ。 「アカツキ、回避に専念しろ。レーザーライフルを使う」 「いきなりそれですか。」 「相手のウィークポイントに一撃当てたら接近戦だ。とはいえ、相手はサイフォスだから簡単には行かないかな」 「簡単に進むことほどショボイことはありませんて。」 「よく言った!」 優一はサイドボードの武装とメインボードの武装の入れ替えの準備を始めた。アカツキの右手にあったアサルトライフルがポリゴンの塊となって消滅し、代わりにアカツキの身長ほどはあろうかというLC3レーザーライフルが転送された。 「そんなモノ、出してきたところでムダですわ!ジャンヌ!!」 「イエス・マスター!」 ジャンヌは再び全身の火器を撃ってくる。今度は一撃必殺を狙った収束ではなく、けん制目的の拡散発射だ。 しかし、アカツキはこれらを紙一重でかわして行く。 「エネルギー充電完了、システムオールグリーン、ターゲットロックオン!いっけえええぇぇぇぇぇ!!」 腰だめに構えたレーザーライフルの砲口からプラズマ球が発生し、一拍おいて閃光が迸る。 それは真っ直ぐジャンヌへと向かい、彼女の体を包み込んでゆく。 そして照射が終わった頃にはジャンヌがいた場所は巨大なクレーターができあがっていた。 「やった?撃った?勝った?」 「お前はシーザーか。・・・?!いかん!!まだだ!!」 「え・・・きゃあ!!」 勝利を確信しかけたその次の瞬間、グレネードの一撃がリアウィングに着弾し、根元から折れてしまった。 その結果、揚力を失ったアカツキは落下するも、脚部のブースターを使って辛うじて着陸する。 「装備を・・・。マスターから授かった私の装備を・・・、許しませんわ!!」 「ぐふぅ!!」 ジャンヌのボディーブローが脇腹にクリーンヒットし、思わず膝を着くアカツキ。 そこへさらに彼女の顔に蹴りが入り、地面へと倒れ込んでしまう。 「誇り高き鶴畑の神姫たるこの私の装備だけでなく、あまつさえ五体の一つを奪うなど、 身の程知らずも甚だしい!その行為、万死に値しますわ!!」 そう言うとジャンヌはさっきのお返しだと言わんばかりにアカツキを足蹴にし始めた。 火器に誘爆したのか、確かに装甲や火器ははほとんど残っておらず、左前腕が無くなっている。 「そうよジャンヌ、この鶴畑和美に逆らった愚か者はどうなるか、観客に教えて差し上げなさい!」 「イエス・マスター!!」 「うっ、あぐっ、くはぁ!」 和美の指示を受けたジャンヌはアカツキをより一層痛めつける。 しかし、残された力を振り絞ってアカツキはジャンヌの脚をつかんだ。 「まだ抵抗する力が残っていましたの?ジャンヌ、トドメを」 「イエス・マスター!」 「まだ、終わっちゃいない!!」 一本残されたナイフをのど元に突き立てようとしたジャンヌめがけてバイザーに隠されたバルカン砲を放った。 人間で言えば豆鉄砲に当たるので、ダメージには至らないが、怯ませるのには十分だった。 「マスター、今です!MVランスを!!」 「いよっしゃ、受け取れ!!」 アカツキはリアウィングをパージし、転送されてきたMVランスを受け取ると、 少し距離を空けてからジャンヌめがけて突撃した。 「いっけえええええぇぇぇぇ!!」 「悪あがきですわね。ジャンヌ!!」 「イエス・マスター!!!」 ジャンヌも転送されてきたトライデントを手に取ると、アカツキに正面からぶつかっていった。 お互いの位置が入れ替わった。 アカツキは右腕を喪失したが、かわりにジャンヌの胸には深々とMVランスが突き刺さっていた。 「ばとるおーばー。Winner、アカツキ」 「マスター!私、勝ちましたよ!!」 「よくやったなぁアカツキ!!さすがだ!!」 クレイドルから出てきたアカツキは感極まって優一に飛びついた。 ところが、反対側から怒声が聞こえてきた。 「全く!!後一歩だったと言うのに、なんたる失態ですの!!ジャンヌ、それとそこのあなた!!今日の所は許してあげますが、次はこうも行きませんわよ!!!」 そう言うと和美は床を打ち鳴らさんばかりにがに股でその場を後にした。 「何ででしょう、一種の哀れみの感情が・・・」 「まあ、良い薬になっただろう。勝負の世界は勝ち続けるよりもある程度は負けを重ねた方が経験になるからな。それはそうとお疲れさんアカツキ。ちょうど昼時だし、うちに帰って焼きそばでも食うか」 「はい、それじゃあ具は豚コマとニンジンにタマネギ、味付けはソースも良いですけど、偶には酢醤油も悪くないですね」 「酢醤油とは・・・、意外と通だな」 「そんなこと無いですよもう!」 二人の絆は家族とも友人とも、恋人のそれともまた違ったモノがあった。 ~The END~ とっぷに戻る